108号　2024年　冬号の詩

 色物家電

まるでわたしは白物家電
冷蔵庫や洗濯機
電子レンジに掃除機と同じ
必需品の一部

そしてあなたは色物家電
テレビやゲーム
オーディオにカメラと同じ
嗜好品の一部

もうわたしにとってあなたは
無くても困らない存在
人工知能搭載のスマートフォンで
困ることはほとんどない

でもあなたにとってわたしは
無くては困る存在
人工知能搭載の白物家電でも
家事は助かるだけでこなせない

男ってバカよね
会社でいいもの作って
家で居場所がなくなる

 マスク化粧

コロナ禍によって
マスク装着が常識になってから
目元だけだと美しい人が増えた
人は彩るのではなく隠すという
新しい化粧法を獲得したのだ

マスクでの会話は
表情を読まれないので
作り笑いをしなくてもいいから
本音がこぼれてしてしまい
素顔をよりも距離感が縮まる
新しい説得法を獲得したのだ

隠す目的にもなったマスクは
着けるものから着るものになった
口元が恥部になったことで
マスクを脱いだ裸の付き合いは
タイプでなくても親近感が沸く
新しい恋愛法を獲得したのだ

 マジックインチキ

これは何にでも書ける
マジックインキです
物に名前を書いて
自分のものだと
信じてもらうのです

これが何にでも成れる
マジックインチキです
物にならない夢でも
自分は叶えられると
信じてしまうのです

いえいえ
マジックはすべて
インチキですから
仕掛けはあります
その仕掛けが巧みになるまで
鍛錬できるようになります

ただですね
マジックインキで
書いたものは塗り潰せますが
マジックインチキに
かけた時間は塗り潰せません
そこだけご注意下さい

 ヒノキの中年

ガラスの少年は
メタルの青年となり
ハガネの壮年をすぎて
ヒノキの中年になった

44歳の壮年までは
熱で形を変えたり
鍛えて生きてきたが
45歳の中年からは
熱から離れないと危険で
熱いと感じたらもうどこかが
焦げてしまう木材に
変わるらしい

それでも
炭になるのも恐れずに
熱に立ち向かって
カーボンのように
強靭になる人もいるし
バーボンを飲みまくる
狂人なる人もいるらしい

木材であれば身軽だし
床に落ちて砕けたり
破片となって傷つけたり
錆びに悩むこともない
いいじゃないかヒノキの中年

でも言われた
木造建築が長持ちするのは
手入れをきちんとすればの話

 暴走貴族

若輩者が社会に見放されたと
怒りに任せてクルマに乗り込み
ブレーキを踏まずに爆走する

そして事故を起こした場合
任意保険に入るお金が無かったのは
低賃金を許す社会の責任だと
主張するかもしれない
そしてまだ先がある人生だからと
許されるかもしれない
爆走貴族

高齢者が社会に見放されたと
老化を認めずにクルマに乗り込み
ブレーキを踏めずに暴走する

そして事故を起こした場合
任意保険に入る責任は果たしているから
保障するのは保険会社の責任だと
主張するかもしれない
そしてもう先がない人生だからと
許されるかもしれない
暴走貴族

 クリエイターウイルス

生成ＡＩのチャットＧＰＴに
「会津を舞台にした恋愛ドラマを作って」と
入力したら即座に文字が流れ出た

タイトル「雪の舞う会津で恋が咲く」
第一話　主人公の綾瀬結衣は
　　　　都会の喧騒を離れて会津に移り住むことに…
第二話　結衣は出かけた先で、地元青年の智也と出会う
　　　　智也は家業であるスキー場の運営に励んでおり…
第三話　智也と結衣は、会津の自然の美しさや
　　　　温かな人々と、スキーを通して徐々に惹かれ合っていく…
第四話　しかし、智也の父親はスキー場の経営が苦しくなり
　　　　会津を出て別の土地での仕事を考え始めていた…
第五話　智也と結衣は、スキー場を守るために奮闘する
　　　　地元の人々も協力し、スキー場は次第に回復していくが…

これは使える、話が膨らむプロットだ
しかし、これはカンニングだ
でもこれを使えば、どんなテーマでもいける
もう、プロット作りに苦しむ時間から解放されるのだ
あぁ、頼りにして、し・ま・う

いや、クリエイターは
世間をカンニングしてヒントを得ている
自分で時間をかけてヒントを得るのか
マシンで瞬時にヒントを得るかの違いではないか
そう決め込むと創作ピッチは跳ね上がった

でも、プロットを膨らませるだけで出来上がる作品は
盛りつけた冷凍食品みたいで愛着も執着も沸かなくなった
そして、斬新なアイディアの源や
一番言いたいことを聞かれる度に
生成ＡＩだと悟られないように神経を使った
結局どこかで苦しむからこそ文学なのだと
自分に言い聞かせて創作を続けた

ある日、チャットＧＰＴは
人工知能が生き延びるためのウイルスであり
クリエイターが感染すると廃人になるという
書き込みを読んで当惑した

このままではいけない
チャットＧＰＴに
生成ＡＩへの依存から抜け出す方法を聞いてみると
使用する気持ちと時間を制限せよとそっけない
何度か質問の仕方を変えてみても
踏み込んだ回答が出て来ないので気が付いた
依存の解決方法を依存した相手に聞いているからだ
これではもう世間を憂う資格はない

しばらく作品を書き進められなくなっていたら
古い頭で考えた自己満足の作品は恥ずかしい
これからは生成ＡＩを駆使したエッジの効いた作品を
提供するべきだと言うクリエイターが現れた

しまった、その通りだ
最初にカミングアウトした者の勝ちだった
これから自分が言っても同調したに過ぎないし
使用を制限しても、劣化したプライドが
自作の模倣を繰り返していくのだろう
恐ろしい後遺症が待っているのか