103号　2022年　秋号の詩

 ハラハラの毎日

気兼ねして言えない雰囲気
危険を感じるハラスメント
スリルを越してストレスになる
ハラハラさせた・ハラスメント
略してハラハラって
そのままじゃないか

なんでもハラスメント化
されてしまうハラスメント
ハラスメント・ハラスメント
略してハラハラって
これも同じじゃないか

口は災いの元だから
深入りしないし打ち解けない
感情を出さないハラスメント
ハラグロ・ハラスメント
略してハラハラって
またも同じじゃないか

 横断歩道処刑台

横断歩道を渡れなくて
無理に渡ろうとしたら
クルマは反対車線に膨らんで
おばさんが僕を
にらみながら通過した
後部座席では
子どもが飛び跳ねていた

いつからか日本の横断歩道は
処刑台になった
あのおばさんは
国家資格を持つ死刑執行人
僕の罪はたぶん
ルールを守ろうとした罪だ

死刑執行人が育てる
飛び跳ねていた子どもは
ルール破りを自覚せずに
絆を切り刻んでいくのだろう
誰も愛してくれないと
死刑執行人を世襲して
横断歩道を通過するのだ

 大惨事世界大戦

第三次世界大戦は
核の戦争だという予想は外れて
隠れ戦争となった
新型コロナウイルスで
人々は街角から隠れ
争わない経済危機という
未曾有の大惨事こそ
第三次世界大戦なのだ

敵兵は民衆に潜み込み
せきの手榴弾と手垢の地雷
クシャミの散弾銃で無差別攻撃
無自覚期間があるから
知らないうちに加担してしまう
社交的な人ほど苦しい戦いとなった

国際人道法では
大量破壊兵器として
化学兵器や細菌を使用する
生物兵器は禁じられている
しかしなぜが
核兵器は禁じられていない
そして心を破壊する心理作戦も
禁じられていない

この世界大戦では
ウィルス感染者が武器になるという
パンドラの箱を開けてしまったのだ
敵対国の経済を攻撃するには
感染者を送り込んで
街中をベタベタ触りまくればいい

 詩人税

詩人になるには
自主出版という納税を
しなくてはいけませんが
詩を書く人は
不幸だから詩を書くので
不幸だから資金に乏しくて
納税できない人がほとんどなので
隠れて書くしかないのです

納税できた人は
資金があるのに不幸なわけで
その不幸は蜜の味がするのでしょう
出版社がたかる訳です

 永眠不足

悩みや心配ごとで
睡眠不足の人は
死んでもなかなか眠れなくて
お化けになって
彷徨うのかな

やるべき事が多くて
睡眠不足の人は
死んだらたっぷり眠りたくて
お化けにならず
成仏できるのかな

睡眠不足は体に悪いが
永眠不足は魂に悪そうだ

 給与迷彩

「先生、これだけの実績があるのに
　僕の給料は安すぎませんか？」
「なるほど、賃金の相談ですね？」
「この給料では、将来不安です」
「わかりました
　賃金には三つの役目があると
　言われていますがご存じですか？」
「いいえ」

「まずは、労働の持続です
　今月もあなたの労働を持続させる
　エネルギーになる費用です
　食べる、寝る、娯楽などですね」
「はい」

「次に、労働の継続です
　数年後もあなたが労働を
　続けることができるように
　健康維持、体力作り
　技能習得などに投資する費用です」
「確かに」

「そして、労働の再生産です
　あなたが次世代の労働者を
　作るための費用ですね
　子どもを産んで育てて
　働けるようにする費用です」
「僕はまだ、一人ものですが？」
「家族を作るための活動費も含みます」
「なるほど」

「これら三つの役目と
　今のあなたの能力とは無関係です
　なので給与明細をわざと複雑にして
　実力から目をそらす工夫をしています」
「えっ、僕の実力に払われている訳では？」
「ありません
　でもあなたには実力ではなく
　存在するだけで給料が払われている
　そう思うと名誉なことだと思いませんか？」