97号　2021年　春号の詩

 輝いていたポストマン

届くとわかっているものしか
届けていないのでさびしいですと
簡易書留を届けたポストマンが話した

インターネットが普及する前は
メールと言えば郵便物だった
ポストマンを見かける度に
ドキドキしていた高校生の私は
年末年始に郵便配達のアルバイトをした
自転車に乗っての配達
想いを届ける側として喜ばれ
やりがいを感じ始めた大雪の日
郵便物が川に浮かんでいる事件が起きた
配達中の落下事故と思われたが
同じアルバイトのメンバーが
配達しきれなくて川に捨てたと告白した

今は仕事で
電子メールの送信ボタンを押す毎日
配達しきれないということは無いが
読みきれずに受信箱へ溜まっていく
電話で催促されてから読むのでは
あのアルバイトと同じだ
未読メールを溜めないポリシーは
あいつのおかげ

 僕らのスイッチ

目を閉じたら暗くなるのではなく
目はまぶたの裏の闇を見ているのだ

耳を塞いで聞こえないのではなく
耳は手のひらの音を聞いているのだ

僕らのスイッチはずっと入っている

 顔ブラジャー

「ねぇ、だから、顔って裸なのよ」
「そうだね」
「顔にも下着があったらいいなぁ
　下着付けて化粧完了って」
「そうだね、大変だものね」

「ねぇ、もう、寝坊してどうしようもない時
　その日は風邪をひいた振りしてマスクする」
「マスクねぇ
　隠すことで想像力が補正するからね」

「ねぇ、マスクって顔ブラジャーだよね
　顔を下から持ち上げている感じ」
「基本白だし、色物や柄もあるしね
　でもマスクは国によっては
　顔を隠す理由がある人だと警戒されるらしいよ」

「ねぇ、バス来たよ
　わぁ、全員顔にブラジャーしているよ」
「なんか、俺ら二人だけ
　裸でバスに乗る感じで
　チョー、恥ずかしくね？」

 自殺する遺伝子

最初の霊長類が現れてから
自分までに一億年分の歴史があるが
自分は社会から否定されて生きている
結婚のあてもなく
子孫も残せないと更に否定されている

それなら一億年分の歴史を
自分で終わらせてやる
だから子孫を残さない
遺伝子の自殺だ

それは身勝手と
更に否定するのだろう
そんな自分を否定する子孫だけが
残っていく未来を
こちらから否定してやる

 人に注意すると殺される時代

人に注意すると殺される
注意したほうが悪いと言われる
人に注意されないから殺した
注意しないのも悪いと言われる

ひとりぼっちにしておきながら
ひとりで生きることを妨げる
カメラで監視していながら
リアルタイムで救わない

社会の人質にならないと
社会から守ってもらえない時代

 直線立法

いいですかみなさん
人間はフリーハンドでは
直線を描けないのです
人間が真っ直ぐに生きるためには
定規が必要なのです
それが法律というものです

いいですかみなさん
その定規が歪んでいても
それが法律になります
人間は直線は描けないのに
書いた線が直線かどうかは
見てわかります

いいですかみなさん
人間はフリーハンドでは
直線を描けないのに
定規を創っているのです