96号　2021年　冬号の詩

 暮らしと現実

オトコと
一緒に暮らすというのは
お店で気に入った扇風機が
部屋では音がうるさくて
風量調節がいまひとつ
という感じかな
まぁ距離を保てば使えるしね

オンナと
一緒に暮らすというのは
お店で気に入ったストーブが
部屋全体は暖まらないけど
正面を向いていれば暖かい
という感じかな
まぁ火傷に注意すれば使えるしね

 ヘブンイレブンいい身分

学生時代に言われた
上れば天国、下れば地獄

就職して言われた
上っても地獄、下っても地獄
何もしないでいられること
それが天国、いい身分

 ウルトラショブン

「隊長、彼の処分は？」
「ウルトラだ」
「解りました」

「諸星くん、キミの処分が決まった」
「そうですか」
「ウルトラだ、地球に行ってくれ」
「そんな！」
「体力勝負のところだ、しかも３分間のな」
「期限は？」
「テレビがなくなるまでだ」

 心の天ぷら屋

「おやじさん
　次のおすすめは？」
「そうねぇ、今日は粋のいい
　失恋が入りましたよ
　かなり甘酸っぱいくてね」
「この薄紫の衣は？」
「片思いですね
　あぁ、恋で悩んでいらっしゃるなら
　これこれ、愛の塩焼き
　天ぷらに胸やけした時にね」

「いやぁ、心って衣をつけると
　美味しいんですね」
「はい、あっ、これが最後です
　醒めた気持ちの天ぷらね」
「あぁ、アイスクリームの
　天ぷらみたいですね」
「そう、醒めた気持ちも
　包み方次第です」
「なるほど、冷たい心も
　 熱く仕上げるのが
　腕の見せどころなのか」

 善悪担保

悪い事はしないように
生きて来たことを担保に
善い事を求めていた

見返りを期待した善意が
実は悪い事だなんて
だから善人は運が悪いのか

だったら悪い事して生きて
善い事を求めないって
実は善い事なんじゃないか
だから悪人は運がいいのか

 飛び降り自信

ラーメン屋さんで割りばしが
綺麗に割れなかったので
死にたくなった

あぁ、なるとの渦に引き込まれる

飛び降り自殺をするには
飛び降りる勇気と
死ねるという自信が
ないといけない

あぁ、チャーシューも死体だ

飛び降りる勇気は
逆境に飛び込む勇気と同じ
死ねるという自信は
死なないという自信と同じ

あぁ、麺はからまった人間関係だ

この一杯で決めよう
逃げることを終わらせる
最後のラーメン
逃げないことを始める
最初のラーメン