94号　2020年　夏号の詩

 ネットの何様

インターネットの世界には神様はいない
ネットには素性を見せない何様ばかりで
ネットが無くなると困るのに貶めている

ナイフは便利なものだが人を殺せるのだ
クルマは便利なものだが人を殺せるのだ
ネットは便利なものだが人を殺せるのだ

ナイフで料理したもので生きているのに
クルマで運ばれたもので生きているのに
ネットで結ばれた誠意で生きているのに

 心の折り紙

中学生の息子が
心が折れたと言った

心という文字を
折り紙で折って見せた

一緒に大笑いしたが
心を折りたくなる
ことがあったんだと
心に折りたたんだ

 議事録詩人

職場のミーティンングで
ホワイトボードに
コメントを書いていた

ストーリーとメッセージを
コンパクトにまとめて
人を動かすもの
これって詩だと思った

詩のウイルスは
こうして生き延びていた

心が乾燥したオフィスで
詩に感染するんだな

 百円ショック

百貨店にあるものは
なくても困らないもの

コンビニにあるものは
ないと困るもの

百円ショップにあるものは
あっても困らないもの

あなたにとってわたしは
あっても困らないもの？

 眉毛虫

ずっと嘘をついていたから
あなたの眉毛だけを
よく覚えている

あなたの目を
ちゃんと見れなくて
眉毛ばかりを見ていた
わたしは眉毛虫
いつか蝶々になると
ずっと嘘をついていた

 歴史の許可書

先生、それならどうして
教科書にそれが
記載されていないのですか？

いいかみんな
歴史の教科書というのは
歴史の許可書なんだ

歴史の記述は
その時の権力者の思惑に沿って
許可されたものだ
不都合な事実は
伏せたり曲げられている

みんな今は
調べる余裕はないけれど
社会に出てから自分で調べれば
不都合な事実はわかるようになる

先生、どうして
調べればわかるようなことを
隠すんですか？

どうせ調べないから
そのままにしておけってことだ
調べたら調べたで
優越感に浸ってもらえばいいってことだ
先生のようにな

いいか、逆に考えたら
試験のための歴史になっている
S だから、覚えやすくて忘れやすい
忘れやすいのが
今の権力者の思惑だ