95号　2020年　秋号の詩

 指輪と首輪とそれは

何かの約束でもある
見える指輪
何かの束縛でもある
見えない首輪

自由になりたければ
外せる指輪
自由になると賄えないから
外せない首輪

犬の首輪は束縛と同時に
狼から喉を守る役目だった
外せない首輪も
自分の喉を守る役目なのか

 ゴミニケーション

互いの距離を
誠意で埋めるのが
コミュニケーション

互いの距離を
屑で埋めたてるのが
ゴミニケーション

 ブラックトゥース

ブルートゥースで繋がっている
歯並びのいい黒いキーボード
這いまわる指先で言語化されて
ネットワークで発言をする

黒い歯で噛みついてしまったのは
虫歯にしみたからだと言うが
歯を大切にしなかった
自分のせいだとは思わない

 痒みを痛める

ひっ掻いてしまうのは
痒い所を痛みで
上書きしているのだ
痒みは治せないのだ

一言多いのは
痒い事を痛い言葉で
上書きしているのだ
痒みは許せないのだ

 命取り線香

人を多く殺した生物とは
一番目は蚊である
二番目は人である

蚊は人を殺したいのではない
栄養を取って種族を残すためだ
人は人を殺したいのではない
資源を取って種族を残すためだ

手段は違っても目的は同じなのだ

人は蚊を駆除するために線香を焚き
人は人を供養するために線香を焚く

手段は同じでも目的は違うのだ

 あの世図書館

「はい、この五冊でお願いします」
「ありがとうございます
　お客様、歴史がご趣味ですか？」
「はい、そうです
　歴史には答えがないから飽きないです」
「そうですか、歴史の答えね
　それはどうも、死んだら解るらしいですよ
　あの世にはすごい図書館があるって聞きました」

「図書館ですか？」
「その、信じるかどうかは別ですよ
　人は死ぬと、その図書館で
　歴史の真実やその訳を
　調べることができるらしいんです
　グーグルで検索するみたいに」

「検索？　あの世でインターネットですか？」
「どうもね、全人類の記憶が
　ネットサーフィンされて
　ライブラリーになっているそうです
　例えば”ＪＦケネディを殺したのは私です”で検索すると
　殺した本人の記憶から検索結果が出て
　その動機も解るらしいのです」
「本当ですかね
　しかも、それは死んだ人の記憶だけですよね？」
「いや、どうもね
　生きている人の記憶も寝ている間に
　ネットサーフィンされて
　ライブラリー収納されているらしいんです」

「そうなんですか
　あぁ、それじゃ、私の悪事も
　誰かが調べることができるんですかね」
「検索できるのは死んだ人だけです
　しかも、生きているうちに
　疑問を持った事だけらしいんです
　隠し事に疑問を持たれなければ
　検索されないようですよ」

「まぁ、誠実に生きろってことですね
　あぁ、早く死ねば
　早く真実を知ることができますね
　もう本を読むぐらいしか楽しみがないから
　自殺して早く図書館に行きたいですね」
「あぁ、ちょっと待って
　自殺した人は図書館に入れないそうです」

「えっ、そうなんですか？」
「死後の世界はテレビもないですから
　その図書館は死後の楽しみらしいのですが
　自殺すると入れなくて、生まれ変わるまで
　暇をつぶすのが大変らしいんです」

「そうですか」
「だから、長く生きて疑問の数を増やしたほうが
　死んだ後に楽しめるってことらしいんです」
「そうですね」
「お客様、実は
　答えの出ていない疑問をたくさん集めた
　本があるんです
　追加で一冊いかがですか？」