77号 2016春号の詩

  1. この星の成人式
  2. あなたの要らない世界
  3. 故障中
  4. 背面パトカー
  5. 不良品という良品を作るための残業
  6. カレキギター
作:イオン
Back to 季刊詩集


この星の成人式

今日は息子の成人式
スーツを着て一丁前だが
まだまだまだ
大人とは呼べない
まぁ火星人から
地球星人になれた
ぐらいの星人式

たぶん
聖人君子にはなれない
二十歳で諦める
自分が悪いのか
世の中が悪いのか

ずるい大人になるよりも
この星の人になるんだ
そう宣言してくる

親として
うなづくだけしかできないが
うなづけるだけありがたい



|タイトル|

あなたの要らない世界

あなたの居ずらい世界
あなたの群れない世界
あなたの取れない世界
あなたの見れない世界
あなたの成れない世界
あなたの意味ない世界
あなたの要らない世界

あなたの言えない世界
あなたの足らない世界
あなたの行けない世界
あなたの折れない世界
あなたの減らない世界
あなたの枯れない世界
あなたの揺れない世界



|タイトル|

故障中

カードケースに
故障中と書いた紙を入れて
首からぶら下げて仕事をした

誰も傷つけない全員への抗議
何だそれと流す人
自覚したかと笑う人
見て見ぬふりで通す人

でも、それだけで
何も変わらず一日が過ぎた

帰り際にカードケースを
職場の入口にかけてきた
この職場こそ
故障中


|タイトル|

背面パトカー

次のニュースです
警察庁は高速道路での覆面パトカーの
全面廃止を検討していると発表しました
不正を暴く警察が
人を騙すようなことをしているのは
子どもの教育に良くないと
速度違反をしたモンスターペアレントの
クレームを受けての対応です

そこで警察庁は
覆面パトカーの変わりに
背面パトカーの導入を検討しています
これは後ろから見ると
パトカーの背面に見える立体模型が
高速道路の路肩に二キロから八キロごとに
間隔も不定で立ち並べるというもので
その間隔内に本物が停車していれば
どれが本物か模型かわからず
スピードが出せないというものです

しかし有識者は
警察が本当に実施するというよりも
速度超過は自己責任であるのに
このようなクレームをする国民に
よく考えて欲しいという狙いであり
実施される可能性は低いと見ています



|タイトル|

不良品という良品を作るための残業

仕事をしていると
良品という不良品を作っているのか
不良品という良品を作っているのか
わからなくなるときがある

親をしていると
真面目という不良を育てているのか
不良という真面目を育てているのか
わからなくなるときがある

長年自分をしていると
世間体を気にした自分を生きているのか
自分を気にした世間体を生きているのか
わからなくなるときがある

でも、わからないからやれているのかも
今日も残業



|タイトル|

カレキギター

社会に出てから三十年
窓際っぽくなってきて
枯れ木のようだと言われてる
達成感がないままに
どうしたものかとうなだれて
毎晩酒に手が伸びる

休日にリサイクルの店に寄り
エレキギターが気になった
定年後また弾きたいと思ってた
老化防止も兼ねながら

アンプを通さず弾くならば
かき鳴らしても静かだし
ひと月分の酒代で
買える値段もありがたい
家内にメールをしてみたが
いつもの速さの返事なく
数日経てば売れそうで
勢いのまま手に入れた

枯れたおやじがつま弾けば
カレキギターとシャレたなら
家内は少しヘソ曲げて
いいわね好きなことできて

酒飲む姿は辛さから
逃れていると見えるから
大変なのねと許せても
ギター弾くのは許せない
楽しく見えてしまうもの

風呂上がり
酒の代わりに弾くはずが
家内が出かけた時にしか
弾けないままのエレキギター
でもなぜか
いけない恋をしてるよう
目を盗んで弾く度に
カレキギターに恋してく



|タイトル|

Back to 季刊詩集


Back to MainPage