60号 2012冬号の詩

  1. 裸の服を着た女
  2. 心臓一発、誰かが一人
  3. いつも子どもが気がかりで
  4. 人間生活三十周年
  5. 賞味期限最後の夜
  6. ホワイトアウト
作:イオン
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裸の服を着た女

喫茶店で雑誌をめくったら
女性が裸を着ていた

「きちんと服が着れないから
 脱いだ訳じゃない
 裸も立派なファッション」
添えられたコメントに目が留まる
裸も衣装と思えば怖くないのか

私は心を裸にして
あなたに飛び込んだつもりだったけど
裸という衣装を着ていたのかもしれない



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心臓一発、誰かが一人

八十歳までに心臓は
三十億回鼓動する

八十年の間に人間は
三十億人死んでいく

僕の鼓動と同時に
どこかの誰かが死んでいく


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いつも子どもが気がかりで

十代、子ども扱いが嫌い
二十代、子どもが出来たら困る
三十代、子どもが出来ないと困る
四十代、子どもの出来具合で悩む
五十代、子どもの成長に戸惑う
六十代、子どもの幸福に奔走する
七十代、子どもの理念に反発
八十代、子どもの健康が心配
九十代、子どもより先に死にたい
百代、子どもの分まで生きたい


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人間生活三十周年

記 者「今年で人間生活三十周年ですね」
あたし「はい、長いような短いようなぁ」
記 者「人間になろうと思ったきっかけは?」
あたし「お父さんが、お母さんにプロポーズして
    なんか、気がついたら
    この世界に入っていました」
記 者「自分の意思ではなかったのですね
    でも、三十年も人間を続けてこれたのは
    やっぱり才能があったということでしょう」
あたし「そうですね
    好きなだけで三十年間も
    人間を続けるのは難しいでしょうね
    少しは才能があったかもしれませんね」


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賞味期限最後の夜

冷たい冷蔵庫の中で
ちゃんと食べてもらおうと
寒さをこらえて頑張ったタマゴ

冷たい職場の中で
ちゃんと比べてもらおうと
寒さをこらえて頑張ったワタシ

冷たい部屋だけど好きでした
みんな、ありがとう



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ホワイトアウト

雪が降りすぎて
目の前が真っ白になり
道路が見えなくなる
ホワイトアウト

言葉が突然すぎて
頭の中が真っ白になり
明日が見えなくなる
ホワイトアウト

仕草が辛すぎて
心の中が真っ白になり
他の人が見えなくなる
ホワイトアウト

白い地獄は
闇より怖い
灯りをともしても
先は見えないから



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