50号 2009夏号の詩

  1. 自分の事を棚にあげて取れない人
  2. 自分を持っている人
  3. 酸化することに意味がある
  4. 詩聖書
  5. 落下辞典
  6. アフリカジャンプ
作:イオン
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自分の事を棚にあげて取れない人

人の振り見てわが振り黙認
犬も歩けば僕に当たる
猫の手は貸さない
窮鼠猫をなでる
馬の耳にウォークマン
一を聞いて十を疑う

石橋を叩いて逃げる
急がば回りくどい
言うは易く行うは彼だし
七転びやだ起きない
絵に描いた無知
逃がした魚は言うまい
うそから出たままごと
海老で鯛を作る

井の中の蛙大会を無断欠席
能ない鷹は爪を立てる
石の上にも残念
雨降って辞意固まる
立つ鳥跡を臭わす

芸は身を砕ける
触らぬ神に但し書き
知らぬがほっとけ
習うより泣けよ
人を見たら泥まみれだと思え


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自分を持っている人

「いずれこの研究は”自分を持つ”という
 精神領域に入ることになります」
「なるほど、先生
 それで”自分を持っている人”かどうかを
 証明できるようになるのですね?」
「はい、ポケットから”自分”を取り出して
 見せることができるようになります
 いずれ社会では、この”自分”を持たないと
 相手にされなくなるでしょう」

「でも先生、みんなが”自分”を持つようになると
 自分を持たなくても生きていける人が格好いい
 なんていうことになるのではないんですか?
 携帯電話みたいに」
「そうですね、一度持ってしまうと
 なかなか捨てられないですからね”自分”」



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酸化することに意味がある

金属が錆びるのは
金属が酸素と結びついて
酸化物を生成するからである

木が燃えるのは
炭化水素が酸素と反応し
二酸化炭素と水に変化する酸化反応である
発生するエネルギーが大量なので
発光と発熱を伴いこれを燃焼という

食べ物が体の中で
エネルギーに変わるのは酸化反応である
必要な酸素を体に取り込み
生成物である二酸化炭素を放出している

心が錆びたり燃えたりするのは
言葉を呼吸するからである
人は酸化することに意味がある



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詩聖書

あなたはなぜ詩を作るのですか?

自分自身の聖書を造っているのです





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落下辞典

「先生、私は落下しているのでしょうか?」
「そうですね、今のままでも、周りが上がって行けば
 それを落下と呼ぶのかもしれません」
「先生、そう言ったら、誰にだって当てはまるでしょう?」
「そうですね、人生に落下はつきものでしょう
 ボクも落下したから親父の病院を継いだのです」
「先生、でも、落下しない人生がいい人生だと思うんですが」
「そうですね、そう思われている方々がほとんどです
 でも、落下を味わって、それを楽しんでこそ人生だと
 ボクは思うんですよ」

「先生、落下したら楽しんでいる場合じゃないでしょう」
「そうですね、でも、落下は自然現象です
 楽み方を知れば怖くなくなるので心配ないですよ」
「先生、楽しみ方って、どうやって知ればいいんですか?」
「そうですね、私が愛読している辞典があります
 これこれ、落下辞典、パラパラめくってみてください」
「なぜ人間は生まれ落ちると言うのか
 落下とは重力があるから発生する自然現象
 上昇とは重力に逆らう現象だから不安定
 上昇は痛みを必要とするが落下は痛みを解き放つ
 落下しても地面に当たらなければ痛くはない
 先生、これ、なんかビジネス新書みたいですが」
「そうですね、裏表紙見てください、いい値段するでしょう
 ビジネス新書を書く人の、辞典だとも言われています」

「先生、でも、いきなり、何千円もするものを買うのは」
「そうですね、でも、こうやって病院にかかれるなら
 辞典を手に入れる余裕もあると思いますが
 完全に落下したら、辞典は買えません
 落下に苦しんで終わることになります」
「先生、ちょっと、怖いですね
 騙されたと思って買うことにします」
「そうですね、騙されたことに気がつかないこと
 気がついても、気にしないこと
 それが落下を楽しむということです
 本は受付で売っています」



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アフリカジャンプ

「博士、地球温暖化を防ぐ最終方法として
 地球を太陽から遠ざけて冷やしたいのです
 しかも人力で
「人力って、核爆弾を使う気では?」
「使いません、ご安心ください
 アフリカ大陸の赤道付近に十億人を集めて
 太陽が一番高くなった時間に
 全員が一斉にジャンプして着地するんです」
「アフリカでジャンプ?」
「そうです、それで地球を太陽から離れる方向に
 人間が蹴ったことになると思うのです」
「でも、地球は太陽の引力に捕まっていますからね
 たぶん、一瞬動いたとしても、戻ると思います
 仮に成功したとしても
 一年の長さが変わり、惑星間の引力も変わります
 地球の絶妙なバランスを崩した人間が
 宇宙の絶妙なバランスまで崩すことになります
 そのようなエゴは、神が許さないと思いますよ」

「博士、そう思われますか
 もう、他に手がないものでしょうかね」
「そうですね、でも、成功しない
 宇宙のバランスは崩れないからこそ
 やってみるというのもありかと」
「どうしてですか?」
「人類が出した熱を人類の力で下げようとした
 科学に頼らず人力で解決しようと一致団結できた
 成功しなくても、人類がそういう自信を得ることで
 環境意識が大幅に高まると思うのです」
「博士、しかし、博士が即答したように
 成功しない、エゴだというという見解に
 押し潰されるかもしれません」
「確かに、そうかもしれません
 でも、ジャンプすべきは、我々の環境意識ですから
 問題提起にはなると思います」
「なるほど、反論を逆手に取りましょう
 地球の未来はアフリカジャンプでも届かない」



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