28号 2004冬号の詩

  1. ダメ予知能力
  2. ウンチング
  3. ずっとセカンド
  4. シナリオツアー
  5. カレーな滑り
  6. 8億4千万回の変心
作:イオン
Back to 季刊詩集


ダメ予知能力

「私ね、これはイケルと
 思うとたいがいダメなのね
 だから、イケルと思ったら
 失敗すると思うことにしたの」

「人間はダメを予知する能力を
 持っているのかもしれないね」

「でもね、反対にこれはダメと思うと
 イケルという予知だと思うでしょう
 そこで、イケルと思っちゃうから
 結局ダメなのよね」

「でも、失敗の先手を打ちながら
 進めるからいいんじゃないか
 あっ、ボクも失敗?」

「うまく行かないと思ってたら
 続いているのよね
 ねぇ、幸せにするよなんて言わないでよね」



|タイトル|

ウンチング

その昔は、ちり紙が無かった
その昔は、ハブラシが無かった
その昔は、ツメ切りが無かった
人間は、指先が届く範囲で
十分生きていけるそうな

もしかして
何も使わなくても僕の指先は
君の心に届くのかもしれない



|タイトル|

ずっとセカンド

少年野球では、セカンドを守った
誰もやりたがらない
複雑なポジション

生徒会では、会計を任された
誰もやりたがらない
煩雑なポジション

会社では、品質保証課に配属
誰もやりたがらない
憂鬱なポジション

家庭では、跡取り息子
誰もやりたがらない
辛辣なポジション

きっとセカンド
ずっとセカンド




|タイトル|

シナリオツアー

「この旅行は、台本に書いた通りの旅を演じるツアーです。
旅に対する期待だけでなく、成果も盛込まれた商品です」
「あの、成果というのは?」
「目的地を巡っても、期待外れだったとの声が多いんです。
それで、みなさんが何を期待していらっしゃるのか調査し
ましたら、旅先での甘い出来事なんですね。そこで、甘い
出来事が盛込まれたツアーができたのです」

「なるほど。でも、演じるために、台本を読んじゃえば、
出来事が判って、楽しみは半減しませんか?」
「はい、台本は、当日渡されます。パンフレットが台本に
なっていますから、さりげなくセリフを読めばいいんです。
覚える必要はありません。セリフは袋とじになっていて、
指定の時間になったら開封します。会話が途切れる心配が
ないので、口下手な方でも安心なんですよ」

「演じるって言っても、会話だけなんでしょう?」
「いえ、旅の恥はかき捨て、みなさん配役通りに体で演じ
ていただきます。このお勧めコースですと必ずロマンスが
組み込まれています。まぁ、金額に応じて違う結果が用意
できますが」

「そうですか。わかりました、お願いします」
「ありがとうございます。それでは、このアンケートと申
し込み用紙に記入してください。これを基にシナリオライ
ターが執筆いたします」

「あの、これ、医者、やくざ、芸能人の設定だと、オプショ
ン料金がかかるんですね」
「VIP待遇の補てんをおこないますからね。あっ、自由に
設定をしてくださいね。当社からお客様同士の素顔は明かし
ませんから。でも、その配役のまま結婚した人もいますから、
ツアー後も、演じきれるものがいいですよ」

「そうですね。はい、じゃあ、奮発して、医者でお願いいた
します」
「ありがとうございます。旅先っていうのは、現実の自分と
違った自分を演じる場所ですからね。なりたかったもの、な
りたいものになりきることで、現実の自分に活力を与えてあ
げるものなんですよ。それじゃ、よい旅を」





|タイトル|

カレーな滑り

スキー場で
華麗にカービングターンを決める彼は
貧乏だからと食堂で
カレーライスしか頼まないの
あたしが
スキーはスポーツなんだから
栄養のバランスが大切よって言っても
クツとのバランスが大切だと言って
カレーをかき込むの
あたしは
放っておけないから
カレーな滑りを追いかけていく

二本のシュプールが
赤い糸でありますように



|タイトル|

8億4千万回の変心

キミとの電話のあと
テレビのボリュームを上げたら
「人の心って一日に
 8億4千万回も変わるんです」
と誰かが言った

途方もない変心の果てに
キミへの気持ちが
昨日と変らないなんて
ボクってすごい



|タイトル|

Back to 季刊詩集


Back to MainPage