「さぁ、九回裏一点差で、ランナーは二塁
バッターボックスには
営業部第二課長が入りました
山岡さん、面白くなってきましたね」
「彼はくせものですからね」
「かるくスイングをして指した先は
二重帳簿、伝票操作であります」
「あぁ、やっぱりね」
「さぁ、新人ピッチャーの藤本、振りかぶって
あぁっと、敬遠だぁ、敬遠です」
「んー、やはり、ここはベンチの
大人の対応でしょうね」
「もちろん、第二球も敬遠です、がぁ、おぉっ
営業部第二課長、それを打ったぁ、ファール
打ちに行きました、営業部第二課長
なんということでしょう」
「信じられないですね
まぁ、手段を選ばない、彼らしいですが」
「さて、第三球目ですが
キャッチャーは立っています、あぁっと
今度は直球、ボールが審判に当たりました
大丈夫かぁ
でも、ストライク、判定はストライクです」
「藤本も、大胆ですね
こういう解らないやつは、扱いずらいでしょう」
「そして、第四球目ですが
あっ、キャッチャーが座りました
おっう！という、この歓声
すごいです勝負です
ついに、営業部第二課長
ベンチを本気にさせました」
「あぁ、熱くなってますね、心配ですね」
「さぁ、藤本、振りかぶって
第四球目を投げた、打ったぁ
打球はショートを抜けたぁ
ランナーが帰って同点
藤本、兆発に乗せられてしまいました」
「若さゆえ、仕方ないですね」
「あぁっと、ベンチから
村上総務部長が出てきました
白い紙、あぁ、辞令です、藤本、転勤です
破れた藤本、飛ばされます」
「まぁ、当然でしょう」
「しかし、場内からは、この
惜しみない拍手、すごいです
山岡さん、本当のお客様を喜ばしてくれたのは
藤本だっていうことですよね」
「見方によってですがね」
「まぁ、遠くに行っても
新人だからこそ熱くなれた、こういう初心を
いつまでも忘れて欲しくないですね」
「どうでしょうね」
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