「山田さん、あなたの夢は？」
「はーい、先生、お金になることでーす」
「お金、どうして？」
「うん、みんなに大事にされるし
　信用はあるしぃ
　全国を旅できるから」
「でも手垢で汚くなるよ
　事件に巻き込まれこともあるし
　憎まれることもありますよ」
「あっ、そうか、じゃぁ辞めとくぅ」

　北部警察署は、六日午後
八時ごろ、駅前三丁目の居
酒屋において、詐欺の疑い
で北部工業団地に勤務する
工員（二九）を逮捕した。
調べでは、工員は同日午後
六時から同居酒屋にて行わ
れた歓送迎会で、異動とな
る上司に涙を浮かべて別れ
を惜しみ餞別のお返しを受
け取ったが、洗面所で同僚
らにそれは嘘泣きで、上司
を騙したと告白。それを伝
え聞いた店員が署に通報し
て現行犯逮捕となった。
　工員は「自分だけが詐欺
者ではない」と共犯を示す
供述を始めており、任意で
同僚からも事情を聞いてい
る。工員の職場では、以前
から上司に対して強い不満
を持っていたらしく、楽し
くないのに楽しいって言っ
たり、苦しいのに平気だと
言ったりする詐欺行為が、
日常的だったと見られ、職
場ぐるみの集団詐欺事件に
発展する可能性もあり、同
署では慎重に調べている。

飛び降りた
虫はけろりとしてるのに
飛び降りた
人はころりと死んでいく

「きみ、この交流安全運動っていうのは、いったい何なんだ？」
「署長、日本における一年間の交通事故死亡者は一万数千人ですが
　自殺者はその倍近くの、二万人を越えています」
「そうらしいなぁ
　一日あたり六十人以上亡くなっていると聞いたような」
「そうです、一時間に約三人です
　自殺未遂や不登校、神経性胃炎まで数えたら
　一日二千件の交通事故も遥かに越える数です」
「そうか、それで人間の交流安全運動か
　それで、いったい何をしたいんだ、君は？」
「はい、人間交流は交通システムと同じです
　だから、自分を運転する免許や
　各自の危険を知らせる標識が必要なのです
　そして違反の取り締まりも」
「くだらん！　具現性が感じられない
　いいかね、事故というのは目で見える物量で
　判断できるものだろう
　庶民の、目に見えない人間関係を
　いちいち取り締まるほど、我々は暇じゃない」
「署長には、自殺者を救おうっていう
　人権保護の考えがないのですか？」
「ないね
　自殺なんて勝手にやらせておけばいいんだよ
　まぁ、せめて自殺と解るように
　死んでくれればありがたいね、検分も楽だし
　後始末も楽なように
　自分で穴掘って埋まりましょうっていう運動でも
　展開してほしいくらいだ」
「なるほど、そうですか
　それじゃ、マスコミにそう言って運動を展開してみましょう」
「おい、冗談だよ」
「いや、今の発言は、このテープに録音してあります
　これを、マスコミに提出しますので
　それじゃ、失礼します」
「おい…　そんな…　自殺したくなるじゃないか」

「お客さん、こちら奥へ」
「おお、これが噂の？」
「はい、これが衝撃吸収ボディです
　これさえ付けておけば
　仕事、家庭、金銭問題など
　どんな衝撃でも
　バッチリ吸収してくれますよ」

「売ってくれるかい？」
「少々お高いですが…」
「でも、金銭問題も
　吸収してくれるんだよね」
「衝撃だけですが」
「よーし、頂こう
　さっそく付けてと
　これで安心して、暴走できる」
「ありがとうございます
　こちらが請求書です」
「すごい金額だな
　でもなんとかなるさ」
「お客さん、その調子です」