「ねえ、どうしてよ、年末だっていうのに
　急に仕事やめて、旅に出るなんて言い出して
　しかも、彼女である私に、なにも相談してないじゃない」
「もう、今年、１９９７年も終わりだよね
　来年は西暦１９９８年、そして次は１９９９年だよな」
「そうよ、だからどうしたのよ」
「来年は、この世の終わりの一年前ってことだよな
　１９９９年７の月、天から恐怖の大魔王がやってくる
　ノストラダムスの大予言だ
　四世紀の時を超えて、その予言の真実を
　俺達はこの目で見れるんだよ
　これは、すごいことだと思わないか？」
「そうね、でもね、それと仕事やめることが
　いったい、どう結びつくのよ」
「あのね、予言が本当だとすると
　俺達には、あと一年しか、楽しめる時間がないんだよ
　だから俺は、残された時間に
　今まで貯めたお金をすべて使って、楽しんで
　悔いのない１９９９年を迎えたいんだよ」
「なにそれ、予言のこと本気にしているの？
　それって、いろんな解釈があるでしょう
　人類が滅亡しないっていう説もあるはずよ」
「うん、知ってるよ、でも、それでもいいんだ
　俺はその予言を信じているんだよ
　絶対当たってるって、小さいときにそう決めたんだよ
　だから、何百年も昔の人が見れなかった
　１９９９年を見ることが、ずっと夢だったんだよ
　人類が滅亡する時まで
　仕事仕事で、この世を、この地球を
　楽しめないまま滅亡していくとしたら
　すごく哀しいし、悔しいと思わない？
　こんなことになるんだったら、あれもしたかった
　これもしとけばよかったって、後悔の涙で
　１９９９年をちゃんと見れないと思うんだよ
　俺は、まず、自分を空っぽにして
　１９９９年を受け入れる体制を、作りたいんだよ」

「ねぇ、そんな決意を持ってたんなら
　どうして、今まで隠していたのよ」
「ごめんなぁ、本当に仕事を辞めてからじゃないと
　信じてもらえないと思ってな」
「ねぇ、それじゃ、私とのことはどうするの？」
「俺は、ここに戻ってくるかどうかを決めて
　旅立ちたくはないんだ
　１９９９年には、激動の地をさまようつもりだし
　１９９９年以外を受け入れることは、できないと思うんだ
　もし、生きて２０００年を、迎えることができたら
　そしたら、ここに戻るかもしれない
　でも、それまでは、俺のことは、忘れて欲しいんだ」

「そう、そうなの、解った、好きにしていいわよ
　でもね、これだけは言っとく
　あなたが戻って来るまで
　私が、待っているかどうかは、判らないわよ
　私はね、１９９９年までに結婚して
　２０００年生まれの子供を育てるのが
　小さいときからの夢だったんだから」